産経新聞社「アピール」 1997年6月2日  

領土に対する認識欠如の政府

 大半の政治家、一部の官僚やマスコミは、自分たちと国民の間にある意識の乖離(かいり)に気づいていないようだ。端的な例は、慰安婦問題に代表される自虐的歴史認識に対する国民の反発や、韓国との間の竹島、中国・台湾との尖閣諸島の領土問題に対する政府の腰の引けた対応への不満だ。結果的には、このことが日本人の自尊心を傷つけている。                                                
 本紙で毎日連載されている「教科書で教えない歴史」が単行本になり、ベストセラーになることをみても、国民は現在の偏向した歴史観、報道姿勢に対して、嫌気がさしていることは明らかである。
 さる5月6日、新進党の西村真悟衆院議員が尖閣諸島を視察した。この行為に対する橋本龍太郎首相以下、政府首脳の発言は、遺憾の意や不快感を表明するものばかりだった。
 そもそも国家の主権にかかわる問題について、国内法上の、それも宅地不法侵入程度の疑いをもって非難・制約する国がどこにあるだろうか。
 政府の対応は日本国民に対して厳しく、中国・台湾の尖閣諸島への姿勢に対しては煮え切らないものだ。政府は「固有の領土」という一方で、外国の領有権にも配慮するかのようなスタンスは「弱腰外交」と言われても反論の余地がない。
 それとは対照的に、英国のサッチャー元首相は1982年、南大西洋上の英領フォークランド諸島がアルゼンチン軍の侵攻を受け、占領されたとき、英国本土から1万3千キロも離れており、羊を飼っているのどかな同諸島に、2隻の空母を含む百隻の艦船、兵2万5千を送って、領土を奪い返した。
 これは、領土の価値が面積の大小や資源の有無だけで決められるものではなく、国民の歴史的な思い入れなどがかかわってくること、かつ、奪われた場合には、速やかに奪い返すという政治のリーダーシップを改めて教えてくれたできごとだった。
 しかし、今回の西村議員の行動に対する政府の姿勢は、領土に対する認識の欠如が生んだ結果だといえる。
 このような政府の対応に、おおかたの日本人は怒りを感じ始めている。このままいけば、竹島における韓国の実効支配のごとく、尖閣諸島も中国・台湾による不法な支配下になることは避けられない。
 そうならないためにも政府は、国家の最大の責務である「国土、国民の生命・財産を守る」という立場で本問題に取り組むべきである。
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